下腹部痛
下腹部痛

下腹部の痛みは、その場所に存在する臓器を推測することが重要であり、部位によって疑われる疾患が異なります。
右下腹部
代表的な疾患として、「虫垂炎(いわゆる盲腸)」や「憩室炎(右側結腸の憩室炎)」が挙げられます。
下腹部中央
子宮や卵巣などの婦人科系疾患が原因であるケースが多く見受けられます。
左下腹部
S状結腸などがある大腸疾患、特に「大腸癌(大腸がん)」や、左側の「憩室炎」などが疑われます。
患者様は一言で「下腹部が痛い」と表現されますが、診察時に右下・真ん中・左下のどこが痛いかを正確に特定することは、診断においてとても重要な情報です。
痛む部位によって存在する臓器が異なり、疑うべき疾患や治療のアプローチ(あるいはご紹介すべき専門科)が全く変わってくるからです。
そのため、お腹が痛む時は「自分が今どこが痛いのか」をしっかりと意識して、医師に伝えていただきたいです。
ただし、最初から「婦人科系が原因に違いない」などとご自身で決めつけて婦人科を受診するよりも、まずは窓口として「消化器内科」をファーストタッチで受診していただくのが一番スムーズです。
消化器内科で診察や必要な検査を行い、その結果として婦人科などの他科の治療が必要であれば、速やかに適切な専門医療機関へご紹介することができます。
場所別の代表的な疾患について、臨床現場で特に遭遇しやすいものは以下の通りです。
右下腹部
虫垂炎、大腸憩室炎、クローン病など
中央(へそ下)
過敏性腸症候群、感染性腸炎、膀胱炎など
左下腹部
便秘、大腸憩室炎、大腸癌など
また、時間の経過による痛みの変化も重要です。
例えば虫垂炎は「最初はみぞおちが痛く、徐々に右下腹部へ移動する」という特徴があります。
また大腸癌の場合、部位により症状が異なります。
例えば虫垂炎(盲腸)のように、「最初はみぞおち(上腹部)が痛く、時間が経つにつれて右下腹部へと痛みが移動していく」という非常に特徴的な痛みの変化を辿るものがあります。
さらに、「大腸がん」の場合は、癌ができている場所によって初期症状の出方が大きく異なります。
右側の大腸癌
便がまだ液体状で通りやすいため、初期にはほとんど自覚症状(痛みなど)が現れません。
左側の大腸癌
便が固形化している上に、腸の通り道も狭いため、比較的早い段階でお腹の張りや痛みといった症状が現れやすく、受診の大きなきっかけになります。
進行する病気であれば、時間が経つほど痛みがどんどん強くなっていきますので、お腹に少しでも違和感や良くならない痛み、違和感が強くなってきたら、とにかく様子を見すぎずに受診してください。
「チクチク痛む」「ドーンと重く痛む(鈍痛)」「キリキリ激しく痛む」といった痛みの性質(種類)だけで、原因が「腸」なのか「それ以外の臓器」なのかを、患者様自身が正確に推測することは非常に困難です。
お腹のどこの臓器が痛みを引き起こしていても、同じような表現になり得るからです。
まずは受診をしてください。
また、痛みの強さや性質だけでなく、「いつから痛いのか(時間経過)」や、「お腹の痛みと排便・ガス排出との関係(便やガスが出ると楽になるかなど)」を意識して観察していただくのが、診断の手がかりとして非常に重要です。
消化器疾患において、特に見落としてはならない重篤な病気(大腸がんや腸閉塞、憩室炎の穿孔など)の初期症状としての腹痛には、以下のような特徴やサインがあります。
痛いときには進行していることがほとんど
これらの疾患は、強い痛みが生じている時点ですでに病態がかなり進行してしまっていることが多いです。
便が細い、出なくなる
腸閉塞(イレウス)の初期症状として「お腹が非常に張る」「ガス(おなら)が出ない」「便が出ない」といった症状から始まります。大腸がんも進行して腸を塞ぎかけると、やはり便が細くなったり、ガスや便が出なくなったりします。
動きに伴う痛み
憩室炎の穿孔(憩室に穴が開くこと)は、最初は右下腹部などの憩室がある局所的な軽い痛み(違和感)から始まりますが、穿孔が進行してお腹の中に炎症が広がると、体を動かしたり、歩いたりする振動だけで「お腹全体に響く激痛(歩くと響く痛み)」へと変化していきます(腹膜刺激症状、腹膜炎)。
下腹部痛は性別によって原因が大きく異なり、考えられる主な疾患に違いがあります。
男性の場合
比較的、お腹の「真ん中(正中)」の痛みを訴えられることが多い傾向があります。
女性の場合
生理痛による下腹部真ん中の痛みや、卵巣・卵管などの付属器のトラブルによる左右どちらか片側の下腹部痛など、婦人科疾患に起因する痛みが非常に多いです。
ただし、男性・女性に関わらず、腸そのものの原因による腹痛(下痢や便秘を伴うもの、便通異常に伴うもの)は共通して多く見られます。
また、30代〜40代の男性に多いとされる「尿路結石」の痛みは非常に激しいと言われますが、他の消化器系の腹痛との明らかな違い(見分け方)は以下の通りです。
背中の痛み
お腹の痛みというよりも「背中の激痛」や「背中をポンポンと叩いた時に響くような痛み(叩打痛)」が非常に特徴的です。
痛みの移動と排尿痛
石が尿管を動くにつれて、痛みがお腹の下のほうへと響くように移動していく感覚があります。
また、尿を出すときに痛み(尿痛)を伴うなど、排尿に関する症状がみられる点も大きな違いです。
女性の患者様で「生理(月経)の時期ではないのに子宮や下腹部が痛む」と来院されるケースにおいて、よくある原因については以下のようなものが考えられます。
特に子宮内膜症は若い女性に非常に多いです。
必要に応じて、適切な専門の婦人科への紹介も可能ですので、まずは一度受診をしてください。
子宮筋腫や子宮内膜症といった婦人科系疾患が原因で、下痢や便秘など「腸の症状」が同時に引き起こされることは実際にあります。
子宮と大腸は骨盤の中でぴったりと隣接している臓器です。
そのため、子宮筋腫が巨大化してお隣の腸を圧迫したり、子宮内膜症が腸の近くで悪化して炎症や癒着を起こしたりすると、大腸の動きが妨げられて、ひどい下痢や便秘を引き起こすことがあります。
「当日中に必ず受診すべき目安(サイン)」として、慢性的な下痢や便秘とは分けて考えるべき明確な症状は以下の通りです。
これらは緊急度が非常に高く、重大な病気が起きている危険なサインです。
逆に、直ちに救急車を呼ぶべき状況の目安は、「痛くて動けない、歩けない」「お腹に振動が響いて一歩も歩けない(動くとお腹に響くほどの激痛)」という状態です。
これは炎症がお腹全体に広がって、緊急手術などが必要な腹膜炎を起こしているサインですので、迷わず救急車を呼んでください。
下腹部痛が長引く、または繰り返す場合、「大腸カメラ(内視鏡検査)」を行うことが非常に重要です。なぜなら、お腹の中に大腸癌(大腸がん)や炎症性腸疾患の診断など、命に関わる大病が隠れている可能性があるからです。
通常、適切な食事をして正常に便が外へ排出されていればお腹が痛くなることはありません。何かしら痛みや不調が続いているということは、腸の粘膜に異常(癌やポリープ、炎症など)が隠れている可能性が極めて高いです。
それを直接目で見て、確実に原因を突き止められる唯一の検査が大腸カメラだからです。
特に40代以降の方に対して定期的な内視鏡検査を勧める理由は、40代以降は統計的にも一気に大腸がんリスク(発症確率)が大きく上がる年齢だからです。
そのため、特に症状がなくても、40代になったら一度は定期的な検査として大腸カメラを受けていただくことを強くお勧めしています。
当院独自の工夫として、検査への恐怖心を和らげるための鎮静剤の使用なども行っています。
クリニックを受診した際、まずは以下のようなステップを踏んで検査を行います。
問診
丁寧にお話を伺います。
触診
お腹を直接触って痛みの場所や硬さを調べます。
血液検査
体内の炎症反応の強さや臓器の異常を測り、緊急度を判断するのに非常に有効です。
腹部エコー・レントゲン検査
お腹の中のガスの溜まり具合や便秘の状態を映し出します。
大腸カメラ
これらを行った上で、最終的な精密検査(確定診断)として行います。
原因が特定された後の一般的な治療アプローチ(対応)は以下の通りです。
便秘治療
レントゲン等で「便秘」が判明した場合、まずは便を柔らかくして排泄を促すお薬を処方します。
ただし、薬を出すだけでなく、「そもそもなぜその便秘が起きているのか」原因(癌などの有無)を確かめるため、並行して大腸カメラ検査をお勧めします。
炎症のある場合
採血で「高い炎症反応」が判明した場合、憩室炎などの急性炎症が疑われるため、速やかに抗生物質(抗菌薬)を投与・処方します。
炎症の値や全身状態によっては、適切な大病院へご紹介して入院治療をしていただくこともあります。
大きな異常がない場合
検査で器質的異常が何もなかった(IBSなど)場合、少し様子を見ていただきながら、食事・運動・睡眠といった生活習慣の改善などを指導し、お腹に優しいお薬でサポートしていきます。
生理以外の時期の痛みであれば、排卵に伴う「排卵痛」や、更年期障害に伴う腹痛、あるいは「子宮内膜症」などが考えられます。
受診する科に迷う場合は、まずは窓口として「消化器内科」をファーストタッチで受診していただくのが一番スムーズです。
診察や必要な検査を行った結果、婦人科や泌尿器科系の疾患が疑われた場合は、速やかに適切な専門医療機関や専門科へご紹介する連携体制をとっています。
病院へ行くまでの移動の間などに、一時的に受診までの対処療法(対症療法)として飲むのであれば構いません。
しかし、「痛み止めによって一時的に症状が隠れてしまい、大腸がんや虫垂炎などの発見が遅れる」という大きなリスクがあります。
痛みが収まったからと受診を自己判断で見合わせることは絶対に避け、必ず受診して根本的な検査を受けてください。
基本的には、ご自身が「温めて気持ちがいい、楽になる」と感じる方法で温めていただいて構いません。
ただし、痛む時はとにかく胃腸への余計な刺激を避けることが先決です。
消化に良いものを食べ、生ものや、アルコール・コーヒーなどの刺激物は一切避けるようにしてお腹を休ませてあげてください。
なお、憩室炎や虫垂炎などの急性炎症が疑われる激しい痛みの場合は、自己判断で処置を続けず、速やかに受診してください。
お腹の張りを和らげるためには、お腹を優しくマッサージ(のの字マッサージなど)して、ガスや便の排出を促してあげるのが効果的です。
また、多くの方が「腸に良いから」という思い込みで、発酵食品(ヨーグルトや納豆など)を熱心に、偏って食べていることがあります。
実は、人によってはこれら発酵食品が腸内で過剰にガスを発生させ、逆にお腹の張りを悪化させてしまうことがあります。
「健康に良いはず」という思い込みで特定の偏った食事ばかりを大量に摂取するのをやめ、バランスを意識することも、お腹の張りを改善する大切なアプローチです。
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